巻頭言
 

今年は明治維新から150年目を迎える節目の年です。今回、新年の日経新聞に連載された明治維新の8つのキーワードを現代風にアレンジした提言が私たち医療人にも一つの行動モデルとなると考え、抜粋して紹介したいと思います。さらに今日、希薄になりつつある“覚悟”についても平昌オリンピックで活躍した選手たちから学び考察して、これからの同門会の発展の参考にしたいと思います。

明治維新150年からの新しい日本への8つの提言です。

01 文明開化:働きアリより賢いキリギリスに〜時代を開く生産性革命

高度成長期には「企業戦士」や「モーレツ社員」と呼ばれる人々が分厚い中間層となり、生産や消費の主役になった。イソップ寓話「アリとキリギリス」で言えば勤勉なアリが美徳とされた。しかし、明治の始まりから150年を迎える今、IT(情報技術)や人工知能(AI)を駆使したデジタル経済が世界的に広がり、中間層は不可欠な存在ではなくなった。英経済学者ケインズは技術進歩と経済発展の先行きをこう見通した。「2030年ころ、人が働く時間は大幅に減り、週15時間働くだけで済む」。好奇心や効率性など生産性を高めるために必要なものを私たちは備えている。未来を見据えて自分を鍛える賢いキリギリスこそが新しい維新の担い手になる。
→働き方改革

02 家父長制:「柔家族」のススメ

明治政府が掲げた「家父長制」は、女性に家庭を守らせ男性の労働力を投入し、経済を陰から支えてきた。人口減少に転じ、女性の力が欠かせない今なお、性別役割分担の意識が残る。家族の構造改革は待ったなしであり、目指すのは、他者とつながり男性と女性の役割を固定しない「柔家族」だ。
→Work life balance (WLB)

03 文官任用令:官民寄れば文殊の知恵に〜「ポスト平和」の国づくり

明治維新後、国づくりの主役は官僚だった。だが形式主義や前例踏襲の慣習が民の活力をそぎ、いまでは表舞台での存在感が薄くなっている。人口減少など、社会の急変に直下する「ポスト平成」時代に求められるのは硬直的な官僚像からの脱皮だ。若手官僚の政策提言など変化の兆しは出てきた。民の改革者との協働こそ未来を切り開くカギであり、未来の官に必要なのは民の知恵や活力を最大限に生かす発想だ。
→産学(医工)連携の推進

04 新貨条例:e通貨 現金を超える

時代が明治に移るとともに生まれた通貨・円が転換点に差しかかっている。世界で金融のデジタル革命が加速し、中央銀行を必要としない仮想通貨が台頭する。通貨・金融の常識が揺らぐ時代。新しいテクノロジーを貪欲に吸収していく時だ。「国家の信用を裏付けに国や中央銀行が発行を独占するもの」という1800年代から続く通貨の常識を一変させかねない破壊力を仮想通貨は秘める。追いかけるように世界の中銀は自らも進化しようと動き始めている。
→新たな医療経済的価値の創造

05 廃藩置県:隣人と心を1つに

藩を捨て日本人になろう-----維新は我々に意識改革を求めた。列強に対峙するため一枚岩の中央集権を必要としたからだ。リードしたのは自ら藩政を改革し海外に目を向けた薩長。今また人口減少が各地に生き残るための改革を求める。ふるさとを解放し外からの稼ぎで暮らしを守りたい。県境にとらわれない挑戦が再び西日本から芽吹く。
→オールジャパンとグローバル化

06 学制:作ろう異才の発射台〜夢ある若手にチャンス必要

国づくりは人づくり。明治ニッポンはそう考え、優秀な若者を欧米で学ばせる一方で、津々浦々に小学校を整備し、国民皆教育の基礎を築いた。今の世も教育への関心は高く、入試や時間割の改革が次々に打ち出される。だが、まだ足りないものがある。変革を先導する異才や海外に飛び出す意欲を持った若者たちの発射台だ。
→若きacademic surgeonの鼓舞

07 殖産興業:冒険こそ商いの源〜異質な個人が強さ育む

明治の「殖産興業」で急速な近代化を実現した日本。忠誠心を持って会社に尽くせば産業も日本も成長するという幸せな時代は通り過ぎた。社外に目を向け新たな可能性を探る自由な個人と、それを活用できる企業が日本を強くする。
→新たな組織(しなやかな医局・同門会組織)への転換

08 和魂洋才:脱亜入欧からチーム・アジアへ

明治の日本を支えた「脱亜入欧」を見直す時期が来ている。世界経済のけん引役は西洋からアジアに移った。日本が活力を取り戻すには、45億の巨大な人口と手を携える以外の道はない。新たな指針は「チーム・アジア」だ。
→アジアとの協働

これら8つの提言を、“外科が関わる医療界”に当てはめて考えてみると、矢印のようなキーワードになり、我々の新たな良き行動指針になると思いませんか!

もう一つは、“覚悟”です。
“覚悟”という言葉はもともと仏教の「覚」「悟」という言葉からきており、「覚」(目が覚める)すなわち迷いがなくなる、「悟」(世界を受け入れる)は、受け入れることを意味し、“覚悟”とは「迷いがなく受け入れる」状態といえます。松下幸之助氏は、「経営者はつねに死を“覚悟”して、しかもつねに方向転換する離れわざを心に描ける人でなければならない。」とおっしゃっています。平昌オリンピックで金メダルを獲った小平奈緒選手は金メダルが取れないといわれる日本選手団の主将を依頼された時、「今、私にしかできないこと。主将の立場をこれからの学びにつなげようと考えたら“覚悟”を決められた」と、そして大会後、「私にとって勇気とは“覚悟”することだと思います」と語っています。またソチ大会代表選考にもれた高木美保選手はソチ大会を日本で観戦し世界の圧倒的な強さを目の当たりにし、「次の4年間はすべてをスケートに捧げる“覚悟”を持たない限り世界には勝てないということを悟りました」と語っています。この二人の活躍を見るに、物事を成し遂げるためには相当の“覚悟”が必要だとあらためて感じさせられました。大きな挑戦をするとき、成功する人は必ず“覚悟”をもって取り組み、その覚悟の差が思考力や行動力に変容して結果につながるわけです。
我々も一流の外科医(academic surgeon)になるようしっかりした“覚悟”を持って臨床そして教育・研究に臨めば、素晴らしい外科医になれると確信しています。

“Young surgeons, the scholars may surpass the master!”

(図1)

(図2)

(図3)

 
巻頭言 2017年