外科学会の新規会員が約20年前から減少し統計予測では2015年にはゼロになるとの予想、「立ち去り型サボタージュ」、都会と地方の格差、医療の刑事事件化と萎縮医療など外科医にとって悲観的な内容が巷に溢れていますが、果たして悲観的なことばかりでしょうか?

 徳島外科同門会が発足し2年が経ち、学内では「以和為貴」と「切磋琢磨」の精神で教育、研究、診療に三本の矢の効果が出てきつつあるように思います。

 研究・教育では、学会活動における“徳島大学外科学”という名前や、論文における“Department of Surgery, The University of Tokushima”も板に付いてきました。最近の研究会では、私の講演を丹黒先生が司会をするような機会もあり、外科全体で行う研究会も増えてきています。また学生の勧誘のための合同説明会なども開催されています。今年の日本外科学会総会では、徳島大学外科全体で33演題発表することができました。ちなみに中四国では広島大学と並んで一位です(岡山25、山口26、愛媛14、香川10、高知14:<帝大系>東大36、阪大79、京大47、九大106)。

 臨床では、大学の手術症例も少しづつ増えてきており、若手の手術経験(術者)もそれにつれ増加しており、大学の中から内視鏡外科技術認定医を輩出できるようにもなってきました(大学病院では外科の手術枠が極端に少ないのが我々の一番の悩みです)。また、徳島での研究会などを通じ全国の各方面の一流の先生方との交流が深まり、若い外科医達が名前を覚えてもらえるようになってきています。

 我々3教授は、若い外科医諸君に出来るだけ多くのチャンスを与えることと効率よく研修やcareer-upを図れるようなシステム作りを行うのみならず、勤務医の(特に大学)労働環境・条件の改善のために日夜奮闘しています。いま大学では、文字どおり、若い外科医諸君が大志をもって大きく飛翔すべく環境も整ってきました。そしてこれから若い外科医諸君が、さらに大きくステップアップするためには大志だけでなくnoblesse obligeの自覚と実践が必要です。noblesse obligeとは、社会のあるべき姿、社会規範(モラル)を表した 仏語の格言で、直訳すると「高貴なる者(身分の高い者)の果たすべき重責」という意味であり、高貴なる者、身分の高い者、紳士たる者には、ことあれば命をも賭して果たさねばならない重い責任があるという、ヨーロッパ社会における精神的バックボーンの役割を果たしている言葉です。若い伸び盛りの外科医が、後輩に自分の背中を見せ指導することで更なる自己能力開発と同門の良き強い絆ができます。この絆を基盤として外科3分野が力を合わせることによって、地方からnumber one や only oneが発信出来ることを若い外科医や学生、そして社会に啓発することが重要です。この成果が、徳大卒業生のみならず他大学の卒業生を含め多くの有能な若者達が、我々外科同門会へ集う近道だと確信しています。

 話は変わりますが、新臨床研修医制度の弊害としておろそかになっている外科医の研究について私見を述べます(内容は今年のDDWのパネルデイスカッション(指定)で話す一部です)。研究のキーワードは、ベッドサイドとベンチトップの双方向、分子からヒト、医工学連携です。研究のテーマは日常の臨床の中に溢れており、探求するという強い意志があれば研究となります。若い外科医が実験的研究を経験することは、木をみて森もみる必要のある臨床外科医の育成には極めて重要です。最も重要なことは、研究における仮説の立案、実証方法(計画)の策定と実践という論理的思考過程を獲得することにあります。質の高いRCTの実践もこの過程が重要です。現在、分子標的治療をはじめ疾患を遺伝子レベルで解明・治療しようとする流れが主流である一方、“がん”を含め生活習慣病など複雑系が関与する疾患に関しては分子のみならずヒト全体をみて研究することが必要となってきています。また研究では医学の枠を超えた発想や方法などの導入が必要となり、このような観点から特にこれから医工学連携が重要なテーマと考えられます。

 紀伊水道をはさんで徳島の向かいの紀州和歌山の医聖 華岡青洲(麻酔薬「通仙散」を発明し1804年世界で初めての全身麻酔による乳癌摘出手術に成功した外科医)が春林軒を巣立つ教え子へ贈った次の漢詩、「竹屋蕭然烏雀喧 風光自適臥寒村 唯思起死回生術 何望軽裘肥馬門 (チクオクショウゼンウジャクカマビスシ フウコウオノズカラカンソンニガスニテキス タダオモウキシカイセイノジュツ ナンゾケイキュウヒバノモンヲノゾマン)」(私の家の周りでは烏や雀が喧しく鳴いている。このような美しい自然にあって、私がただ思うことは、今までに治せなかった病気を治すことだけだ。決して高価な着物を着たり、肥えた馬に乗るような贅沢は望まない…)をみんなで考えてみましょう。

Young Surgeons, Ambition and Noblesse Oblige!!