外科同門会が出来て5年が経ちました。昨年から今年にかけては外科にとって外にも内にも大きな変化があった年ではないかと思います。一つは、平成22年度の診療報酬改定で外科の手術手技料が上がったこととです。まだ十分ではありませんが、外科医の労働環境の改善や待遇改善に貢献できるmilestoneになるものと考えています。もう一つは大外科として徳島県の地域医療を支えるべく地域医療外科診療部(寄附講座)を作ることができたことです。外科が力を合わせ県西部の外科医療の崩壊をくい止め、さらに地域医療発展に寄与する大きな一歩となったと思います。また、関連病院でもひと昔前の第一外科、第二外科の枠を超えた若い外科医たちの人事交流が進んできています。このような人事交流が益々円滑に行われることにより、徳島大学外科と関連病院のさらなる発展に繋がるものと確信しています。これからの同門会の発展には、組織としての強さと構成する一人としての個人の強さが必要と思います。特にこの"個"の強さを実現するための方法の一つとしてポジティブ心理学の概念が役に立つと思いますので紹介します。

 ポジティブ心理学(positive psychology)とは「よい人生」について科学的に探求し、社会を繁栄させるような強みや長所を研究していく学問です。1998年に当時の米国心理学会会長でもあった米ペンシルベニア大学の、マーティン・セリグマン博士が提唱・創設した分野で、従来の心理学のように人間の精神病理に焦点を当てるのではなく、強み(strength)や美徳(virtue)といった人間のポジティブな機能に注目した心理学で、今アメリカの心理学において最も成長している分野の一つです。ポジティブ心理学が対象とするのは図の右半分の領域(標準〜ポジティブな状態)に属する事柄で、例えば個人のレベルでは、いかにいきいきと生きるか、組織レベルでは、いかに組織を繁栄させるか、非の打ちどころのないところまで仕事の質を高めていくかといった内容となります。Dr. セリグマンは、良い人生につながる充実をもたらす人間の性質を「ポジティブ特性」として、24項目に分類し、誰もが兼ね備えているそれらの特性が人間の強みと美徳を形成するとし、さらに彼は「無理な努力をして弱点を修正する必要などない。『とっておきの強み』を認識して活用していけば、成功することも深い満足を得ることもできる」と言っています。

 ポジティブ心理学では、幸せに働く人は高い成果(高収入)を残していることが知られています。ポジティブ組織行動学のDr. フレッド・ルサンズはPsyCapと言う理論を発表し(PsyCapとはPsycological Capital(心の資源)の略)、組織が今の国際的な競争に勝ち残るための新しい「答え」として、人の心を通じての組織力強化の重要性を訴えています。組織のひとりひとりが、高い成果を残すには人の心の中にある以下の4つ、すなはち、@自信・A楽観・B希望・C回復力を育て、開発することが重要だとしています。

 ポジティブ心理学の主要概念に、一番自分らしさを発揮するための最高の能力発揮状態「フロー体験」(「一つの活動を行う際の内発的に動機付けられた、時間感覚を失うほどの高い集中力、楽しさ、自己の没入感覚で言い表されるような意識の状態あるいは経験」)がありますが、分かりやすく言えば「目の前の仕事に引き込まれている状態、のめりこんでいる状態」のことです。フロー理論はクリントン大統領が絶賛したことで一躍脚光を浴びました。また、"個"の強み開発のためには、逆境に負けないためのメンタリティの獲得も重要です。組織も人生も必ずしも順風満帆とはいかず逆境に立ち入った時にも、悲嘆にくれることなく、むしろ逆境を逆手に取り、乗り越えるための潜在能力を誰もが兼ね備えており、その核となる特性が「しなやかな強さ」(レジリエンス:resilience)です。レジリエンスとは、「弾力性」という意味で、剛毅な強さというより、竹がしなるような柔らかな強さのことであり、逆境を乗り越え力に変えていく上での重要な資質とされています。レジリエンスは、逆境においてなお「希望・楽観性」を持ちえること、「楽しさ・ユーモア」を忘れないこと、つまりポジティブであることが基本となり、加えてつらいときにも意味を見出せるような「有意味性」、マイナスの出来事を柔らかに受け止められる「柔軟性」などによって作られることになります。これらフロー体験とレジリエンスの重要性を認識することが個の強みの開発と、引き続く組織力の強化には欠かせないと思います。

 過去800年の品種改良の歴史の中で多くの育種家が挑んできた夢であるとともに英語では「不可能」の代名詞であった"青いバラ"がついに昨年、最先端のバイオテクノロジーの遺伝子組換え技術を使って完成しました。その別名は"喝采"であり、花言葉は"夢はかなう"です。

 若い外科医のみなさん、ポジティブ思考とレジリエンスそして大きな夢を持って外科医としてのフロー体験をするとともに、"青いバラ"を追求しようではありませんか。

 Ambitious young surgeons, Yes, you can get the Blue Rose!