医療や大学を取り巻く環境は相変わらず一段と厳しくなっていますが、最近、世間では少しずつ明るい話題も出て来ています。日本全体にとっては2020年のオリンピック招致、ソチオリンピックでのLegends (伝説)と称される40歳代の葛西選手の大活躍、徳島では徳島ヴォルティスのJ1昇格、などです。また医療界に目を向けると、今年の診療報酬改定では、予定手術前の当直(緊急呼び出し当番を含む。)の免除や交代勤務制または時間外手術に手当(時間外給与とは別に)を出すこと等を要件として手術・処置の時間外、休日、深夜の加算の大幅引き上げ(2倍)が実施されることとなり、外科医の待遇改善への一助となるものと考えられます。

一方、徳島大学外科に関しては、昨年、2人の若い消化器外科学会評議員の誕生、そして2015年一斉選出での新たな3人の評議員候補、3人目の肝胆膵外科学会高度技能専門医の誕生、それと6人のFACS (Fellow of American College of Surgeons)の誕生(図1)など外科の若い力の台頭が始まったことです。この若い力をさらに強くするために、昨年のアメリカ外科学会のConvocationで、Pellegrini会長がnew fellowsに語った「The surgeon of the future: Anchoring innovation and science with moral values」が参考になると考えます。彼は講演の中で、「これから外科における変化のスピードは益々加速して行く、またこれまでの専門領域の垣根がなくなっていく、今後の外科医は、interventional biologistsとして活躍するintelligent surgeonsにならなければならない。外科にはhigh-performance teamをつくるために旧来の権威主義的ものではない新たなリーダーシップが求められ、これは相互の尊敬の上に立ち、いわゆるnon-technical skillsを重んじるリーダーである」としてリーダーシップの進化・変化の重要性を強調しています。また、「明日へのチャレンジが重要さを増す中、倫理規範(moral compass)がより重要視され、成果は5つの価値、すなわち、Professionalism、Excellence、Innovation、Introspection(自己反省)、Inclusion(一体性)で評価される。そして、自分の未来は形つくことができる、そして重要なのは自分がどんな“違い”を作りたいかを決めることだ」と述べ、最後に、“I trust you, and, as Christopher Robin said to Winnie the Pooh(くまのプーさんとロビン少年), “You must always remember: you are braver than you believe, stronger than you seem, and smarter than you think.” You, my friends, have the power to change the world.” と締めくくりました。

彼が講演の中で述べている”Inclusion”(一体性)は聞きなれない言葉と思います。しかしながら私はこれからの組織にはこの概念が重要と感じています。この言葉は、従来から使われている”Diversity”という言葉と対比して用いられています。まず、言葉自体の違いをみると、”Diversity”は人々の差異や違いを意識した言葉であり、”Inclusion”は一体になるという意味合いの強い言葉です。また、”Diversity”は多様性のある状態を作ることに焦点を当てているのに対し、”Inclusion”は人々が対等に関わり合いながら、組織に参加している状態を作ることに焦点を当てています。また、”Diversity”が多様な人が働くことのできる環境を整える考え方に近いのに対し、”Inclusion”は1人ひとりが自分らしく組織に参加できる機会を創出し、貢献していると感じることができる日々のマネジメントや文化を作ろうとする発想に基づいています。”Inclusion”が実現した組織とは、「すべての人々が多様な個性をもって、自分らしく社会と組織に参加し、最大限に力を活かすことができていると感じられる組織の状態」と考えられます(図2)。

”Inclusion”を組織で実現するには、以下の4つがポイントになると考えられます。
1.組織としての”Inclusion”の機会を提供する
それぞれの人が自分らしい形で関わることができる仕事や機会が提供される。
2.組織のビジョンや目指している姿を常に考え対話が起こるようにする
常に組織のビジョンや目指している姿を考え、それぞれがどのように自分らしく貢献したいか、また貢献できているかという対話や確認が起こる環境を作る。
3.固定化された行動パターンを要求しない
4ひとりひとりが”Inclusion”の意識をもつ
個人が自分の中にある固定観念を意識し、暗黙的な排斥や区別を行っていないかを確認し、気づく機会を作る。

これらが達成されれば、組織内外を問わずさまざまな人が自分らしい形で組織に主体的に関わり、力を最大限に発揮することができます。また、組織に常に異なる考えや新しい考え方が入ることで、組織のイノベーションが起こり、そして、人々が対等に関わり合うことで、相互に成長や変化することが促され、理想的な組織が出来るのではないかと思います。

”Inclusion”で徳島大学外科の一層の発展を共に築いていこうではありませんか。

”Young Surgeons, Be Intelligent and Ambitious!”

図1

図2