まず今回、東日本大震災で被災されたすべての方々に心よりお見舞い申し上げます。また、被災で亡くなられたご遺族の皆様に、衷心よりお悔やみを申し上げます

2011年頭に当たって、今年の目標とする字を、"凛"とういう字にしました。辞書によれば、態度・容姿・声などが、きびしくひきしまっているさまとなっています。自分自身を含め、世間の流行りや人の意見に流されていることが多い現代社会で、自分の考えをはっきりとさせ、自らの責任のもとで決断と選択をすること、すなわち「確固たる自分を持つこと」ができるようになる「凛とした生き方」をすることが重要であると考え"凛"を選んだわけです。最近の東日本大震災に関するさまざまな報道で、政治家は別として被災地の方々の秩序立った(規律が守られた)非常に冷静な行動と巨大震災下のストレス下で平時よりさらに働いている姿に、世界各国から大きな賞賛が寄せられています。世界は、震災下においても日本で守られる規律は地域社会への責任を重んじる文化であると考えています。このことは私たちに、日本人の根底には、"凛々しい態度"が備わっていることを再認識させてくれるとともに、日本人としての誇りを持たせてくれました。

さて、同門会第四幕としての今回は、フランス最優秀職人章であるMOFと"もしドラ"から同門会の発展を考えたいと思います。
MOF( les Meilleurs Ouvriers de France)とは?メチエ(Metier)という言葉は、"手に持つ職"の意味で、熟練した腕前(技能)を持ってなす職業をさし、我慢弱くなった若者が敬遠しがちの、下積みとか 辛抱努力がなければ会得出来ない職のことです。メチエを実践するのがこのウーヴリエ(Ouvrier)で、まさに職人、職工と呼ばれる人達になります。MOFは、1922年に商工大臣ルシアン・ディオールの提唱で、ウーヴリエの作品コンクールを行って優秀な製作者を選び、"フランス最優秀職人"のタイトルを与え表彰することにはじまり、現在は非営利団体が、文部省や労働省などの認証と後援を受けて、手工業の保護育成と発展、人材の 養成などを目的とした「MOFコンクール」として受け継いでいます。MOFはまさにフランスの匠で、日本では「人間国宝」に当たります。コンクールにおける判定は、技能だけ に限らず人格的判断も関わるために、MOFのメダルはまさに職人としての心技体において最高の 評価を受けた証明ともいえる一方で、惜しみなく受ける称賛と尊敬の代償に重たい義務を背負わされます。MOFに値する技術と才能を維持するのは当然ながら、さらにそれを向上させるべく自己研鑽を常に怠らず、自己の体験と得たノウハウを次の世代に正確に伝える努力をしながら、MOFコンクールに挑戦出来る優秀な人材をより多く育てるべし、というものです(MOF憲章参照)。
MOFコンクール、パティスリー部門で、史上最年少27歳の若さで栄冠を得たパスカル・カフェというチョコレート職人の次の言葉がしゃれています。「職人は才能5%、修行と努力が95%だ。私はまだ95% に達していない。だからパリではなくここの田舎にとどまって工夫と努力、研究をしている。私の4つのモットーは、一に菓子やチョコレートの製作作業をシンプルにしながら深見ある味を追求する、二は手際の良い作業の組織化、三は一緒に働く人達との密なコミュニケーション、そして四には人の意見に常に耳を傾けることだ。」

この職人を"医師"に置き換えてみると、私たちのあるべき姿、同門会発展の道標が示されていると思います。

"もしドラ"とは、ご存知の方も多いと思いますが、「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら」(ダイヤモンド社)のことです。あらすじは、以下のようなものです。「都立高校に通う主人公の川島みなみは2年生の夏休み前に親友から野球部のマネージャーを引き継いだものの、その野球部はやる気のない野球部だった。「マネージャー」「マネージメント」について学ぼうと本屋で薦められ、ピーター・F・ドラッカーの本を(どんな本か中身を確認せずに)買ってしまう。それは野球とは関係のない企業経営についての本だったので一度は落胆するが、読んでみると、企業組織の運営の仕方についての様々な示唆が書かれており、それは高校野球部という組織のマネージメントにも当てはめられることに思い至り、組織の定義や目標設定・マーケティング、人事改革・社会貢献・イノベーションなど本に書かれていることを参考に取り組み、大小の問題をクリアしながら甲子園出場を目指してき、夏の大会でついに決勝戦へ・・・ 」。この内容は、見方を変えれば、地方大学の勝ち方の参考になります。つまり、我々に求められているのは、医者の狭い世界のことではなく、もっと世の中に目を向け、その中で成功する秘訣を例えばドラッカーなどに求めることが必要だということだと思います。実は、私が徳島に赴任してきた時の心がけは、"以和為貴、切磋琢磨"とこのドラッカーの「不得手なことの改善にあまり時間を使ってはいけない。不得手を並の水準にするのには、得意を超一流にするよりも、はるかに大きなエネルギーと努力を必要とする。すなわち自らの強みに集中すべきである。」という精神で若手の長所を最大限に伸ばすことでした。皆で"もしドラ"を実践してみると同門会の一層の発展が達成できると感じているのは私だけではないと思います。

 若い外科医のみなさん、もしドラ思考とそして大きな夢を持って "日本版MOF (医師部門)"を目指そうではありませんか。
 Ambitious young surgeons, Yes, you can be a"les Meilleurs Ouvriers de Japon"!

最後に震災に遭われた方々、大変な国難にあるすべての日本人に、今こそ英知と勇気を持って、"がんばろう!、日本"。

  スーダンで医療活動を行っているDr. 川原尚行
NPO法人ロシナンテス代表(URL http://www.rocinantes.org/)
昨年の九大第二外科同門会でのひとこま