<肝移植の適用疾患は?>

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基本的には、他に治療法のないあらゆる肝疾患の末期肝不全の方が肝移植の適応となります。しかし、最近肝がんの患者さんの増加が著しく、肝硬変のみならず治療不能ながんも一挙に根治する肝移植の有用性が注目され、良好な成績が報告されています。また肝機能がある程度良くても、肝がんに対して他に有効な治療法が望めない場合、肝移植の適応となることがあります。肝移植の適応となる疾患は図5に示す通りです。

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C型肝炎ウイルスによる肝疾患は通常慢性肝炎、肝硬変、肝がんと10年単位で進行します(図6)。

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C型肝炎ウイルスによる肝硬変・肝がんは肝移植の適応として最も多い疾患です。C型肝炎に対する肝移植の一番の問題点は、その再発です。通常肝移植後ほぼ全員にC型肝炎は再発することが知られており、移植後1年でほぼ半数の方が慢性肝炎を発症し、5年後には約20-30%の方が肝硬変に移行することが知られています。C型肝炎再発後の治療としては、インターフェロンとリバビリンという薬が使われていますが、肝移植後の患者さんは様々な副作用により量を減らさなければならないことが多いのが特徴です。完全にウイルスを駆除できるのはウイルスのタイプにもよりますが30%前後です。


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B型肝炎ウイルスは通常、出産時に母親から感染します。一部の患者さんは、血液や輸血、性行動、薬物注射により感染しますが、劇症肝炎をおこすこともあります。B型肝炎ウイルスによる肝硬変・肝がん・劇症肝炎は肝移植の良い適応となります。ただ移植後の予防が必須で、予防がない場合ほぼ100%の方が再発してしまいます。予防にはB型肝炎免疫グロブリン (HBIG)とラミブジンやエンテカビルなどの抗ウイルス剤が用いられますが、これらは非常に有効で最近ではほぼ100%再発の予防が可能になっています。


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肝がんに対する肝移植の最大のメリットは、病的肝臓を全部摘出するため、肝がんのみならずその背景にある肝硬変も一挙に根治できることにあります。ただ全ての肝がんが肝移植の適応となるわけではなく、がんが進行しすぎると肝移植をしても再発する確率が高くなるため肝移植が不可能になります。3cmまでの肝がんなら3ヶまで、5cmまでの肝がんならば1ヶのみ(ミラノ基準といいます。)という条件ならば、その肝移植成績はその他の疾患の肝移植成績と同等で、わが国でもこの基準内の肝がんが保険適応となっています。肝がんに対する前治療を受けている場合には、治療を終了した日から3月以上経過後の移植前1月以内の術前画像を基に大きさ、個数を判定し保険適応の有無を決定します。この基準をこえる肝がんでも移植適応となることがありますが、残念ながら保険が適応されないため、この場合は自費になります。


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その他、アルコール性肝硬変や原因不明の肝硬変も肝移植の適応となります。アルコール性肝硬変の場合、禁酒後6ヶ月以上経過し、しかも肝移植後飲酒を再開するおそれがないという条件で肝移植の適応となります。


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それまで健康であった方が、何らかの理由(B型肝炎ウイルスや薬剤、あるいは原因不明)で肝機能が悪化し、急速に(通常症状が出てから8週間以内)意識障害(肝性脳症と言います)をともなう肝不全状態に陥る疾患をいいます。一部の劇症肝炎は血漿交換や血液透析といった内科的治療に反応し治癒しますが、一般的に内科的治療の予後は極めて悪く、肝移植の良い適応となります。
劇症肝炎は急速に進行することが特徴で、一刻もはやい肝移植が必要となります。脳症が進行すれば昏睡に陥り、中には脳死状態となることもあります。また経渦中に様々な合併症を引き起こし移植の適応とならないこともしばしばです。したがってそのような状態になる前に肝移植が必要となります。肝移植後の予後は良好で、肝移植が成功した場合、意識障害(昏睡含む)も通常回復します。



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通常30才台から50才台の中年女性に多い原因不明の疾患で、わが国の特定疾患に指定されています。慢性的に肝臓中の細い胆管が破壊され、胆汁がうっ滞し進行すれば肝硬変になります。肝移植の良い適応となります。


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通常、20才台の若い男性に多い、原因不明の疾患です。慢性的に割と太い胆管周囲に炎症が起こり、胆管が硬化・狭窄し、胆汁がうっ滞し進行すれば肝硬変になります。潰瘍性大腸炎や胆管癌が合併することがあります。中年〜年配の方では胆管がんとの鑑別が必要になります。肝移植の良い適応となります。


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胆道閉鎖症は新生児におこる疾患で黄疸、灰色の便などの症状から診断されます。小児の最も多い肝移植適応疾患です。胆汁の消化管への排泄ができないため胆汁がうっ滞し放置すれば肝硬変となり死亡します。通常、生後100日前後までに葛西の手術という手術が行われます。手術により約三分の一の患者は黄疸が消え成人となることが可能ですが、残りの三分の一は黄疸が消えずに肝不全となり、もう三分の一は一時的に黄疸は消えるものの幼児期に肝硬変となり死亡します。
その他にはアラジール症候群やベイラー病といった先天的に胆管形成不全がおこる遺伝性疾患もあります。
これらは肝移植の非常に良い適応といえます。



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肝臓から産生される酵素が先天的に欠損するために様々な症状をおこす疾患をいいます。小児期に起こるものがほとんどでウイルソン病、高チロシン血症、α1-アンチトリプシン欠損症、ビリルビン代謝異常、高シトルリン血症、糖原病、家族性アミロイドポリニューロパチーなどの疾患があります。これらは肝移植の良い適応です。


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自己免疫性肝炎、バッド・キアリ症候群などがあります。