海外留学記 その2(岩田君 Karolinska Institutet)


■ インターネットを接続する

どこでもそうですが、インターネットは必要な手段です。日本でもそうですが、目的地への行き方や、バス・電車の時刻表、激安国際電話のカードの購入から、在スウェーデン日本大使館の情報のみならず、メールまで何でもそろってます。携帯電話取得と同時に、できるだけ早い時期に接続されることをおすすめします。

solna市のKarolinska Institutet内の宿舎に住む場合は、学内LANになっており、UACでインターネット接続の申込用紙を書いてITセンターへ提出すると、1週間ほどで接続の仕方と、ユーザー名とパスワードが割り当てられます。一番簡単なのは、留学先の秘書の方に頼むのが手っ取り早いです。これがおすすめです。職場のIDカードの申請時に「宿舎のインターネットをつなぎたい」と申し出れば、職場のインターネット接続と同時に、宿舎の接続手続きも一度に済むからです。

 

■ 外部から日本のメールボックスへの接続の仕方

日本で設けているメールボックスに来た電子メールをどうやってこちらで見るか。
日本の職場の事務のお姉さんに頼んで毎回転送してもらうのもいいでしょうが、おすすめの方法が「Yahooメール」です。まずYahoo IDを取得し(無料)、Yahooメールアドレスを取得します(無料)。ここを開いて送受信したいメールアドレスのサーバー名とパスワードを入力すると(日本の職場で聞いて下さい)、確認のために転送予定のメールアドレスにYahooからメールが届き、この指示に従って、入力すると外部で開いたYahooメールに転送されます。この手続きは日本にいる間にされた方がいいかもしれません。
これは日本国内でも学会出張に行った際に職場に来たメールを見るにはいい方法です。

 

■ 生活関連の充実

さて、スウェーデンでの諸手続もほほ完了し、同時進行で家内ががんばってくれていたのが生活関連の充実です。前出のアパートですが、もう少し詳しくご説明しますと、築4年、2DKで家賃10万円/月。駐車場は別料金です。備品として食器(皿、コップ、マグカップ、ワイングラス)、フライパン、鍋各種、ナイフ、フォーク、スプーン、調理器具、冷蔵庫、オーブンコンロ、ベッド、寝具、洗濯機、掃除機、テレビ(ビデオなし)電話(要申し込み(ネット経由))など、ほぼそろっている他に家具も新たに買い足す必要ないくらい揃っています。同じ敷地内でもう少し安い独身用の宿舎になりますと部屋数は少なくなるそうです。また、同じ日本人留学者の中には、職場には近いけどホテルを改装したような部屋で、ホテルに備え付けの冷蔵庫なので非常に小さいなどいろいろ不便みたいです。

 
 

そのような恵まれた環境の中で私たちが買い足した「三種の神器」は、電子レンジ、炊飯器、コーヒーメーカーでした。この3つの中でも電子レンジは必需品です。家電量販店や、スーパーなどいろんな店が入ったSolnaセンターで電子レンジは8,000円弱、Philips社製炊飯器6,000円、Bosch社製コーヒーメーカー4,500円でした。炊飯器は小さいものは簡単すぎる作りで、しっかりしたものはやや大きすぎるし火力が強すぎるのか、「保温」だと翌日ご飯がパリパリになってしまいます。米はスーパーでも売っていますが、硬いし、パラパラだし、日本食材店にあるカリフォルニア米がベストです(10kgで4,000円程度時期によっては安売りあり)。

 
 
こちらは寒冷地なため、緑黄色野菜が少なく、果物にいたってはリンゴとバナナとミカンのみです。ビタミン不足を補うためにこんなものを買ってしまいました。(本当はインテリアとしておきたかっただけです)
 
 

■ 日本食材店

東洋系の人種はどこに行ってもいるものです。中国人、韓国人、そして日本人。日本の先輩方も北欧の地でがんばっていらっしゃいます。その中で利用しているのがサンアイ(Tegnergatan15)、ナオイ(Tegnergatan 6)、JFKです。サンアイ、ナオイは地下鉄の緑路線Radmansgatan駅下車、出口は2カ所でTegnergatan方面へ出て(駅の看板に矢印があります)COOPスーパーを右手に見ながらTegnergatan通りを歩くと見つかります。どの店も日本人が経営されて、非常に親切です。ただ海外の店で日本人が流暢に日本語で対応されると奇異に思えるのは私だけでしょうか。

 
 

■ Division of Transplantation Surgery

私がお世話になっているところは、Karolinska InstitutetのHuddinge病院臓器移植部門です。
ここは世界的に有名なところで、あらためてご説明するまでもありませんが、3年ほど前に肝移植、腎移植、膵移植、骨髄移植が合併し、そのトップとして肝移植のBo-Goran Ericzon教授が就任されたのです。Ericzon教授は、1984年に31歳の若さで米国ピッツバーグに留学され、同時期に留学されて、苦楽を共にした仲間のおひとりが当科の田代征記先生だったそうです。その後、Ericzon教授はHuddinge病院に赴任されて肝移植をするよう要請されました。
この病院での肝移植における主なイベントとしては、

1989年 1st segmental graft
1990年 1st FAP patient transplanted
1990年 1st patient treated with Tacrolimus
1993年 1st liver donor over 65 years
1994年 1st split graft
1996年 1st LTx with living related donor
1997年 1st domino LTx
1997年 1st allogenic liver+bone marrow Tx

があり、FAPに対するドミノ肝移植術に関してはあまりに有名です。こちらでは肝移植は年間平均50例前後を行っており、そのほとんどが脳死肝移植術です。レシピエントの基礎疾患としては多い順に慢性肝炎(アルコール性、ウイルス性)、FAP、腫瘍、劇症肝炎、再移植です。特に最近はアルコール性肝炎と腫瘍が増加傾向にあり、アルコール性肝硬変は社会問題にもなっています(タバコよりも重要視されています)。

Karolinska Institutet移植部門ホームページURL: http://www.cfss.ki.se/

こちらにご厄介になってから、まずされることは咽頭と鼻腔のMRSA検査でした。これが陰性と診断された段階で、手術参加が許されます。

 

■ ある日突然、肝移植

こちらはほとんどが脳死肝移植ですから、肝臓を提供していただくドナーの状態しだいで、手術開始時間が決まります。後日お見せできると思いますが、今までの平均開始時間を見てみますと、夜中スタートが多いようです。さらに週末が多いようです。メンバーとしてはバックテーブル、レシピエント手術で4人が招集されます。こちらはコーディネーターがメンバー召集までやっております。あらかじめ、毎日のカンファレンスで、コーディネーターからドナー肝が出るかもしれないという報告はあるのですが、この部分だけスウェーデン語なので、私にしてみれば、ある日突然、肝移植なのです。

 
 

手術場は案外広くなく、扉は重厚な鋼鉄製なので、非常に重く、手洗い後は背中で体重をかけて押し開けます。ドナー肝臓の各血管、胆管を露出するためのバックテーブル(保冷機能つき)が用意され、まずバックテーブルでの作業が開始されます。

 
 

ここは最先端といいましょうか、手洗いはヒビスクラブでブラシを使わずに行います。紙でしっかりとふき取った後は、Steriliumなる消毒薬(非常にアルコールの強い)で入念に消毒して、二重手袋で手術に望みます。凍結されたUW液を加えて凍える手で6-0糸を結びつつ、バックテーブルでの作業は進んでいきます。この間に提供していただいた肝臓を受け取られる側の患者レシピエントが入ってきます。器械だしの看護師さんがレシピエントの腹部消毒を行い、ドレープまでかけてくれます。

 
 

バックテーブルは約1時間で終了し、術者にドナー肝の状態、血管、胆管の状態を報告し、レシピエント側の手術が始まります。通常は3人一組で行いますので、1人はその間に仕事に戻ることもあります。手術の詳しい話はとてもプロの方にご説明できる力量を持ち合わせておりませんので、割愛させていただきます。ただ、対外循環を回すか、ピギーバック方式にするか否かは、レシピエントの血管の状態と、術者の判断になります。写真は本年3月からこちらにこられている阪大の山本慎治先生です。以前マイアミで肝移植のご研究をされていたそうで、非常に優しくて優秀な方です。ぜひ当科にほしい人材です。

 
 
血管系を吻合できた時点で、腹部をガーゼパッキングして一度全員が「コーヒータイム」と言って、手を下ろします。日本では考えられないことですが、小休憩を挟んだほうが、ぶっ通しでやるよりは仕事の効率がよいとの判断で、そうやっているのだそうで、コーヒーと、サンドウィッチが出てきます。この間に肝臓に十分に血流がいきわたり、胆汁が出てきます。時々、看護師さんが、「出血してます!」と呼んでくれる事もありますが・・・。
全手術時間約7時間程度で手術終了です。
 

■ 一般的な1日の流れ

ここで簡単に、通常の1日の流れをご紹介します。

朝8:30からカンファレンスが始まります。まず全員の前で当直報告があり(肝、腎移植部門)、連絡事項、9:00からレントゲンカンファレンス(術後症例に対するレントゲンと、腎移植症例の術前血管造影の放射線科医による読影)があり、少しコーヒータイムをおいて回診があります。その後は各人それぞれの仕事に移ります。このほかに曜日によって病理カンファレンス(切除標本と病理組織像を病理医が説明)、腫瘍カンファレンス、移植適応検討会などがあります。日本と違って盛りだくさんの割に朝始まるのが遅く、回診終了時には11:00になっていることが多いです。また回診前にコーヒーとサンドウィッチをつまむところは非常に欧米ならではですが、よく見ていると医者と看護士のコミュニケーションの場でもあるみたいです(もちろん他愛もない話をしていますが)。もしかしたら、日本でも必要かもしれません。

回診はProf. Ericzonであっても、ほったらかしで、私と二人回診の時もあります。
入院患者が日本の5分の1程度と少ないため、一人一人にしっかり説明して回診をされています。もちろん、人種的なこともあるのでしょうが、患者と医師がもめることはほとんどないようです。

言語については、カンファレンスは日本人用に英語で行ってくれますが、回診や手術時はスウェーデン語になります。また、レントゲンカンファレンスや病理カンファレンスでも英語ができない方もいらっしゃるので、そのときは容赦なくスウェーデン語になります。

不定期ですが、これらのほかにmortality mobidityカンファレンス(特異症例の検討)、liver seminar(肝臓に関する最近の知見などを紹介)があります。特にliver seminarは昼12:00から45分間程度のセミナーで、スープとパンケーキ、コーヒーが無料ででてきます。

手術は肝移植術だけでなく、肝腫瘍に対する鏡視下手術も行っています。手術日は毎日あり、1日平均並列で2〜3例です。
(つづく…)

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