【胃領域】胃がんとは


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《胃の機能と構造》

胃はお腹の中にある臓器で、口から食べた食物が食道を通って胃に入ります。胃は酸やタンパク質を分解する物質や粘液などを分泌します。胃内に入った食物はしばらく停滞し、殺菌作用のある胃液と混和、粉砕されて、少しずつ十二指腸から小腸へ送り出されます。食物からの栄養の消化吸収は主に十二指腸以下の小腸の役割で行われ、胃は主にその準備を行っています。

食道から胃への入口を噴門、胃から十二指腸への出口を幽門、幽門の口側の部を幽門洞、胃の入口に近い部位を胃体部といいます。胃体部からは胃酸やビタミンB12を吸収するための内因子を分泌し、幽門前庭部は胃酸の分泌を調節するガストリンというホルモンを出しています。胃の酸分泌や食物を送り出す運動はこのようなホルモンや神経によって複雑に調整されています。

また、胃の壁は、最内層が胃液や粘液を分泌する粘膜、次に胃の運動を行う筋肉(固有筋層)、最外層は漿膜と呼ばれる薄い膜で覆われています。さらに粘膜と固有筋層の間の粘膜下層、固有筋層と漿膜の間の漿膜下層を加え5層で構成されています。

 

《胃がんの原因と予防》

胃がんは、胃の粘膜細胞から発生します。胃粘膜は食物などの多様な刺激にさらされるため、食事や栄養といった因子が発がんと大きく関係するとされています。特に塩分の多い食物の過剰摂取や喫煙が胃がんの発症の危険を高めます。その他肉や魚の焦げなども危険因子の可能性があります。

近年、ヘリコバクター・ピロリと呼ばれる胃内に存在する細菌が発がんに関与していることが確かめられ、これが産生する物質が原因ではないかと疑われています。年齢が高いほど感染率が高く50歳以上の日本人の70〜80%以上に感染がみられます。

このような微量であっても繰り返される発がん性物質の曝露などの多くの因子が複合し、粘膜細胞において様々な遺伝子異常が蓄積されて、発がんするものと考えられています。

したがって、胃がんを予防するには、禁煙し、ビタミンCやカロチノイドを多く含んだ野菜や果物などをバランス良く摂ることが大切です。またニンニク、タマネなどに予防効果があるとされています。

しかし、それでも胃がんの発生を完全に防止することはできません。さらに相当進行するまで症状が無いことも多いため、40歳を過ぎたら胃がんの検診を受けた方が良いでしょう。

胃がんは粘膜面に生じるので、内視鏡などの検診で、粘膜の凹凸や、色調の変化などを観察することによって、早期に発見することが可能です。そして早期に発見されればより良好な治療効果が期待できます。

 

《胃がんの発生と進行》

胃粘膜に発生した胃がんは、何年もかかって検査で発見可能な数mm大の大きさになり、放置すると胃壁を外に向かって粘膜下層、固有筋層、漿膜下層、漿膜へと徐々に深く進んで行きます。発育の方向として、管腔内への隆起、水平方向への拡大もみられ、主に水平方向へ浸潤していく種類のがんもあります。

胃壁へ深く進んで行くに従って、リンパ管や血管に入り込んでがん細胞が拡がる可能性が高まり、リンパ節や肝臓や肺といった遠くの臓器にがんが生じる場合があります。これを転移と呼んでいます。さらに胃壁を突き抜けると、近くの大腸や膵臓など他の臓器に直接浸潤したり、お腹全体にがん細胞が散らばったりします。

このようにリンパ管に入ってリンパ節に転移することをリンパ行性転移、血液に乗って肝臓や肺などに転移することを血行性転移、お腹全体にがん細胞が散らばる転移を腹膜播種といいます。

こういう理由で、どのくらい深く胃壁へ進んだか、これを深達度といいますが、これは胃がんの進行度を決める大きな因子の一つです。さらにリンパ節転移の個数が増えれば増えるほど、進行度は高くなります。遠くのリンパ節転移は遠隔転移とみなされます。次いで多いのは腹膜播種と肝転移で、どちらもかなりの進行がんで、治療は困難です。

早期の胃がんは無症状のことも多いのですが、上腹部痛や不快感、出血のために発見されることがあります。進行すると食欲不振、体重減少、胃を食物が通れなくなることによる嘔吐、貧血やそれによって引き起こされる動悸などを訴える場合があります。


《ステージ》

胃がんの進行度をステージと呼び、I、II、IIIA、IIIB、IVに分類されています。これは長年にわたる治療成績の検討の結果、深達度、リンパ節転移の程度、他の臓器の転移の有無を組み合わせて決定されています。

病期(ステージ)

早期胃がんとは、深達度が粘膜下層までのがんをいいます。リンパ節転移は、早期がんでも発生します。

 

《検査方法》

上部消化管造影検査

硫酸バリウムという造影剤を口から飲んで、胃の輪郭といった全体像の他、空気とバリウムで胃内の微細な凹凸や形態的変化を映し出します。苦痛が少ないので検診の他、がんの部位や範囲を詳細に決定するなどの目的で行われます。

胃内視鏡

直径6〜12mm程度の太さのファイバースコープを胃内に挿入して、胃がんの有無、胃内での拡がりや部位、がんの深さなどを観察します。また胃の病変の一部を採取して、顕微鏡でがんかどうかを調べます。これは内視鏡下生検と呼ばれ、診断が確定します。最近では鼻から挿入するファイバーもあり、患者様の不快を軽減しています。

超音波内視鏡

超小型の超音波断層装置の付いたファイバースコープを挿入し、超音波を用いて主にがんの深達度や周囲組織への浸潤の他、リンパ節転移の有無を診断します。

CT検査

X線を使って身体の輪切りの像を描き出し、胃がんの治療前検査では、主にがんの進展範囲、深達度、転移の有無を調べます。また造影剤を注射して撮影するのが普通で、ヨードアレルギーの人はそのむね申し出て下さい。

注腸造影検査

肛門から上部消化管造影と同じ造影剤と空気を注入し、大腸を造影する検査です。大腸に胃がんの直接浸潤や腹膜播種によって狭窄などの異常所見がないかを調べます。

その他、術前の合併症などを調べ、手術の危険性を十分検討します。

 

《治療方法》

日本胃癌学会から胃がん治療ガイドラインが出され、治療を過去の治療成績に基づいて標準化する努力がなされています。

内視鏡的治療

内視鏡的粘膜切除術が代表的ですが、内視鏡的レーザー治療、光線化学療法などがあります。

内視鏡的粘膜切除術は全身麻酔も開腹も行わず、内視鏡下にがんの下に生理食塩水などを注入して病変部を浮き上がらせ、特殊な道具を用いてがんの周囲に正常な粘膜をつけて切りとる治療です。順調にいけば20〜30分で終了できます。ただし、大きな病変で、数切片に分けて切除する場合は1〜2時間かかることもあります。

過去の臨床成績の結果から深達度、大きさや形態、内視鏡下生検から判明したがんの分化度(顕微鏡で見て胃の正常の粘膜によく似た固まりを作るがんを高分化、そうでないものを低分化といいます。)などを総合してリンパ節転移の少ない胃がんが分かってきました。リンパ節転移がなければそれを取る必要がないので、内視鏡的に治療可能ということになります。

ここまでの治療は通常は消化器内科で行われます。しかし、この治療の適応外の症例や、内視鏡下に切除した病巣を顕微鏡で見た結果、予想より深いところまでがんが及んでいたり、血管やリンパ管に入り込む場合では、リンパ節に転移している可能性が高くなりますので、外科手術の適応となります。

外科療法

手術は今日でも最も有効で確実な治療手段です。胃がんでは早期からリンパ節転移が起こりうるため、外科療法は、がんを含めた胃の切除のみならず、周辺のリンパ節や若干遠いリンパ節の切除が重要な要素を占めます。これは術中に転移が明らかな場合だけでなく、肉眼的に転移が明らかでなくても予防的に行われ、これをリンパ節郭清といいます。このように治癒を期待して行う手術を根治手術と呼び、この場合は主病巣の局在に応じてリンパ節郭清の範囲がガイドラインで定められ、標準手術では2群リンパ節まで郭清を行うこととなっています。

しかし腹膜播種や遠い臓器やリンパ節に転移などが明らかな場合など主にステージIVに分類される患者さんに負担をかけてリンパ節郭清をしても延命効果が期待できないため、がんを含めた胃切除のみを行う場合もあります。これは主病巣をおいておくと出血が止まらなくなったり、がんが大きくなって胃の狭窄を来し、食事が口から摂れなくなったりすることを避けるために行うものです。さらに主病巣の切除すら困難な場合は食物が通るようバイパスをつくる手術が行われる場合もあります。このような手術は姑息的手術と呼ばれています。

また十分根治手術可能と思われても、患者さんの状態や合併症によって手術を縮小せざるをえない場合もあります。

当院では早期がんに対しては、原則的に腹腔鏡下に行う方針としております。これは腹部に1cm程度の穴を4〜5カ所あけて腹腔鏡というカメラで観察しながら胃の切除を行います。胃を切除した後は食事が通るように再建をしなければならないのですが、この消化管再建を5〜7cmの小さい開腹創から行います。最近では腹腔内ですべてを行う、完全腹腔鏡手術を行っております。手術創が小さくすむと痛みが少なく、術後の回復が早いため、少しでも患者さんの負担を軽減するためにこのような術式を取り入れています。

胃切除の範囲は局所切除術、分節切除術、幽門側切除術、噴門側切除術、全摘術を行っています。

局所切除術は内視鏡的切除では不十分となる恐れがあるもののリンパ節郭清が不要と考えられる症例に行っています。切除範囲の大きさや部位の関係で残った胃に狭窄が生じそうな場合は輪切りにして中抜きにするような形で分節切除術を考慮します。手術後の体力や食事摂取はほとんど低下しません。

幽門側胃切除術

胃がんは胃下部に発生することが多いので、胃の出口の方の2/3を切除する幽門側胃切除術が最も多く行われています。再建は残った胃と十二指腸を直接吻合するビルロートI法で行っています。残った胃が小さくなったような場合、その胃と十二指腸の間に空腸(小腸の口側の部)をいれる空腸間置法という方法や十二指腸を閉鎖して残った胃と空腸をつなぐRoux-en Y(ルーワイ)法という再建行います。十二指腸を食物が通る方が生理的と考えられていますが、まだどの再建がベストなのか決定的ではありません。

噴門側胃切除術

胃がんが噴門に近い場合には、噴門寄りの胃を切除する噴門側胃切除術も行われています。食道と残った胃を直接吻合すると胆汁や膵液の逆流で食道に炎症が生じるため、空腸を食道と残った胃の間に間置します。

胃全摘術

術後の食事摂取に関しては、幽門側胃切除のほうが全摘より良いのでできるだけ胃は残したいのですが、深達度が深く、がんの拡がりが著明な場合など前述の術式では不十分と考えられれば胃を全部切除する胃全摘術を行います。空腸間置やRoux-en Y再建を行います。

 

 

《手術の合併症》

手術の合併症には、出血や縫合不全(縫合した部分の治癒が悪く腸内容が漏れる)、膵液漏(膵臓についた傷から膵液が漏れ出ること)などがあります。縫合不全や膵液漏は絶食にして、点滴で栄養補給し、創の治癒を待つことでほとんど対応可能です。

根治性を高める目的で、胃とともに膵尾部(膵臓の左側)や脾臓を合併切除することもしばしば行われます。この場合には膵臓の切除後にその切り口から膵液漏を起こし、それに合併した感染による膿瘍を形成しやすくなります。

 

《手術後の後遺症》

ダンピング症候群

胃を切除した後は、食物を一旦貯留させる場が無くなるため、たくさん早く食べることが難しくなります。また食物が胃でゆっくり調節されることなく小腸や十二指腸へ流れ込みます。
その結果、食事直後から30分以内に発現する動悸、発汗、めまい、眠気、腹鳴(お腹がごろごろはげしく鳴ること)、脱力感、顔面紅潮や蒼白、下痢などがおこることがあり、早期ダンピング症候群と呼ばれています。これは急激に流入した食物の浸透圧に反応して、多量の腸液が急激に分泌され水分バランスがくずれたり、各種ホルモンが分泌されたりする結果おこる現象とされています。
さらに血液中の糖分の値(血糖値)は食後急激に上昇します。
それに反応して、血糖値を下げるホルモンであるインシュリンが大量に分泌され、一定時間後には血糖値が下がりはじめます。しかし、そのころには食べた食物の糖源はすでにほとんど吸収された後ですから、血糖値はどんどん下がってしまいます。食後2〜3時間のころに突然脱力感、冷汗、倦怠感(けんたいかん)、集中力の途絶、めまい、手や指の震え、時には意識が遠のくようなことまでおこります。これを後期ダンピング症候群と呼びます。この場合、糖分を上げるために、あめ玉や氷砂糖など甘い物を摂ってください。

腸閉塞

術後にお腹の中で腸が急に屈曲し、狭くなってあちこちにひっつくことがあります。これは癒着の結果生じるのですが、癒着そのものはあらゆる手術操作の後に程度の差はあれ生じるもので避けることはできません。腸管の狭い部に食べ物がつまると、便もガスも出なくなりお腹が張って嘔吐を伴うようになります。また、時には腸がねじれて、腸の血流が障害されて腐ってしまうため、緊急手術が必要な場合もあります。一般的にはしばらく食事を止めると治ることが多いのですが、時には癒着を剥がす手術が必要なことがあります。

貧血

鉄分やビタミンB12が吸収されにくくなり貧血の原因となります。胃全摘や切除範囲が大きな場合に発生率は高く、術後数年してから起きますので定期的に血液検査をして補給します。特にビタミンB12は注射が必要になります。

骨の異常

カルシウム吸収が悪くなり、骨が弱くなって骨折することもあります。定期的に骨密度を測定し、必要であればカルシウムの吸収をたかめる活性型ビタミンD3が投与されます。

逆流性食道炎

胆汁や膵液が逆流し、胸やけなどの症状がみられることがあります。これは噴門の逆流防止機能が損なわれる、胃全摘や噴門側胃切除の術後に多くみられます。できるだけ上半身を高くし、粘膜保護剤、酵素阻害薬などの薬剤が投与されます。

術後胆石症

嚢は肝臓でできた胆汁を貯め、濃縮したりしますが、食物が十二指腸に流れてきたときに、胆汁を出して脂肪の消化を助けます。
 胆嚢に行く神経が切れることがあり、胆嚢の動きが悪くなり、胆嚢に炎症を起こし、結石ができることがあります。

 

《化学療法(抗がん剤投与》

再発を予防する化学療法(補助化学療法)

StageIIより進んでいる癌においてはTS-1を術後内服してもらいます。1年間内服することで再発を予防すると報告されております。

外科療法では切除しきれないことが予想される場合

外科療法で切除しきれないことが予想される場合は、術前に抗癌剤治療を行い、病巣を縮小させてから手術を行います。患者さんの状態をみながら、腫瘍縮小効果が高いとされるS-1、シスプラチン、パクリタキセルなどを組み合わせています。

再発、切除不能の場合

抗癌剤だけで完全に治癒させることは極めて困難で、治療の目標は延命となります。S-1の他、シスプラチン、パクリタキセル、ドセタキセル、イリノテカンなどの薬剤を組み合わせて治療しています。

副作用

抗がん剤はがん細胞だけでなく正常の細胞も攻撃してしまうため、貧血、白血球減少、嘔気、下痢、脱毛などの副作用がでてくるのです。抗がん剤や患者さんによっても出方は異なるため重い副作用を避けるため慎重に状態を検討して投与しています。

 

《生存率》

1994年から2004年までの264例の手術症例の検討では5年生存率はステージIで96.2%、IIで75.8%、IIIでは68.8%、IVでは0.5%となっています。

 

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