《治療方法》
日本胃癌学会から胃がん治療ガイドラインが出され、治療を過去の治療成績に基づいて標準化する努力がなされています。
内視鏡的治療
内視鏡的粘膜切除術が代表的ですが、内視鏡的レーザー治療、光線化学療法などがあります。
内視鏡的粘膜切除術は全身麻酔も開腹も行わず、内視鏡下にがんの下に生理食塩水などを注入して病変部を浮き上がらせ、特殊な道具を用いてがんの周囲に正常な粘膜をつけて切りとる治療です。順調にいけば20〜30分で終了できます。ただし、大きな病変で、数切片に分けて切除する場合は1〜2時間かかることもあります。
過去の臨床成績の結果から深達度、大きさや形態、内視鏡下生検から判明したがんの分化度(顕微鏡で見て胃の正常の粘膜によく似た固まりを作るがんを高分化、そうでないものを低分化といいます。)などを総合してリンパ節転移の少ない胃がんが分かってきました。リンパ節転移がなければそれを取る必要がないので、内視鏡的に治療可能ということになります。
ここまでの治療は通常は消化器内科で行われます。しかし、この治療の適応外の症例や、内視鏡下に切除した病巣を顕微鏡で見た結果、予想より深いところまでがんが及んでいたり、血管やリンパ管に入り込む場合では、リンパ節に転移している可能性が高くなりますので、外科手術の適応となります。
外科療法
手術は今日でも最も有効で確実な治療手段です。胃がんでは早期からリンパ節転移が起こりうるため、外科療法は、がんを含めた胃の切除のみならず、周辺のリンパ節や若干遠いリンパ節の切除が重要な要素を占めます。これは術中に転移が明らかな場合だけでなく、肉眼的に転移が明らかでなくても予防的に行われ、これをリンパ節郭清といいます。このように治癒を期待して行う手術を根治手術と呼び、この場合は主病巣の局在に応じてリンパ節郭清の範囲がガイドラインで定められ、標準手術では2群リンパ節まで郭清を行うこととなっています。
しかし腹膜播種や遠い臓器やリンパ節に転移などが明らかな場合など主にステージIVに分類される患者さんに負担をかけてリンパ節郭清をしても延命効果が期待できないため、がんを含めた胃切除のみを行う場合もあります。これは主病巣をおいておくと出血が止まらなくなったり、がんが大きくなって胃の狭窄を来し、食事が口から摂れなくなったりすることを避けるために行うものです。さらに主病巣の切除すら困難な場合は食物が通るようバイパスをつくる手術が行われる場合もあります。このような手術は姑息的手術と呼ばれています。
また十分根治手術可能と思われても、患者さんの状態や合併症によって手術を縮小せざるをえない場合もあります。
当院では早期がんに対しては、原則的に腹腔鏡下に行う方針としております。これは腹部に1cm程度の穴を4〜5カ所あけて腹腔鏡というカメラで観察しながら胃の切除を行います。胃を切除した後は食事が通るように再建をしなければならないのですが、この消化管再建を5〜7cmの小さい開腹創から行います。最近では腹腔内ですべてを行う、完全腹腔鏡手術を行っております。手術創が小さくすむと痛みが少なく、術後の回復が早いため、少しでも患者さんの負担を軽減するためにこのような術式を取り入れています。
胃切除の範囲は局所切除術、分節切除術、幽門側切除術、噴門側切除術、全摘術を行っています。
局所切除術は内視鏡的切除では不十分となる恐れがあるもののリンパ節郭清が不要と考えられる症例に行っています。切除範囲の大きさや部位の関係で残った胃に狭窄が生じそうな場合は輪切りにして中抜きにするような形で分節切除術を考慮します。手術後の体力や食事摂取はほとんど低下しません。
幽門側胃切除術
胃がんは胃下部に発生することが多いので、胃の出口の方の2/3を切除する幽門側胃切除術が最も多く行われています。再建は残った胃と十二指腸を直接吻合するビルロートI法で行っています。残った胃が小さくなったような場合、その胃と十二指腸の間に空腸(小腸の口側の部)をいれる空腸間置法という方法や十二指腸を閉鎖して残った胃と空腸をつなぐRoux-en Y(ルーワイ)法という再建行います。十二指腸を食物が通る方が生理的と考えられていますが、まだどの再建がベストなのか決定的ではありません。
噴門側胃切除術
胃がんが噴門に近い場合には、噴門寄りの胃を切除する噴門側胃切除術も行われています。食道と残った胃を直接吻合すると胆汁や膵液の逆流で食道に炎症が生じるため、空腸を食道と残った胃の間に間置します。
胃全摘術
術後の食事摂取に関しては、幽門側胃切除のほうが全摘より良いのでできるだけ胃は残したいのですが、深達度が深く、がんの拡がりが著明な場合など前述の術式では不十分と考えられれば胃を全部切除する胃全摘術を行います。空腸間置やRoux-en Y再建を行います。
|