佐藤宏彦君が、平成17年4月1日付けで学位を授与されました

 

研究としては,1)実験的急性膵炎に対するFK506(Tacrolimus)の持続動注療法の効果についての検討,2)実験的急性膵炎に対するシャペロン誘導剤を用いた持続動注療法の効果についての検討3)実験的急性膵炎に対する動注療法の効果についての検討を行ってきた。

実験的急性膵炎に対するFK506(Tacrolimus)の持続動注療法の効果についての検討ではFK506(Tacrolimus)の持続動注療法(1.0mg/kg)により膵壊死率の有意な改善を認めたが,至適投与量(1.0mg/kg)を越えると血圧低下,膵組織障害の増悪を来す事を明らかにした。

ついで、実験的急性膵炎に対するシャペロン誘導剤(R6)を用いた持続動注療法の効果についての検討を行った。R6はgeranylgeranylacetone(GGA)の1/100の濃度でHheat shock protein (HSP)を誘導する薬剤である。1.R6の持続動注療法により血中膵酵素,膵壊死率の有意な改善を認めた。2.R6の持続動注療法により非壊死部膵実質組織内にHheat shock protein 70(HSP70)の発現を認めた。以上のことから実験的急性膵炎に対するR6の持続動注療法は効果があり,その効果の要因にHSP70の発現が関与していることを明らかにした。

厚生省特定難治性膵疾患である重症急性膵炎は膵の炎症が膵局所や膵周囲にとどまらず,全身に逸脱した膵酵素やその二次産物であるサイトカインなどの反応により,炎症が全身に広がり,好中球の活性化に伴う中性プロテアーゼや活性酸素の放出の結果,発症早期から肺,肝,腎などのMultiple organ failure(MOF)やDissemirated intravascular coogulation(DIC)を合併することが知られている。そのため治療法として膵局所に対する原因療法とMOFやDICに対する全身療法が必要となる。積極的な局所治療として膵酵素阻害剤持続動注療法や全身療法として持続血液濾過透析などがなされている。しかし死亡率30%と依然として高いのが現状である。現在臨床で施行されている膵酵素阻害剤持続動注療法の基礎的検討ではNafamostat mesilate(FUT-175)のみであり、Gabexate Mesilate(FOY-007)に関しての基礎的評価の報告はない。またFUT-175は低Na血症,高K血症の電解質異常を来すため,腎障害を伴う重症急性膵炎患者に対する投与は電解質バランスの管理を極めて困難なものとする。そこで電解質異常を来さないFOY-007の急性膵炎に対する動注療法の基礎的な評価が必要となる。

以上の観点から申請者は実験的急性膵炎モデルを作成し,膵局所病変に対するFOY-007を用いた持続動注療法の効果についての基礎的検討を行った。

研究結果として動注群は早期に全身状態を安定させ,血清膵酵素値,腹水中膵酵素値を有意に低下させた。また膵の実質に対する壊死面積比では無治療群36.1%,静注群25.3%,動注群19.5%と膵壊死の著明な抑制効果が認められた。さらに膵組織内FOY-007濃度の検討では動注群が静注群の32倍を示した。これらの成績から実験的急性膵炎に対する局所療法としてのFOY-007の持続動注療法は膵局所のFOY-007濃度を高めることにより膵炎の進展を抑制することが示唆された。


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